2009年3月10日火曜日

ブランドの安売りはブランドを潰すか?

ネットショップなどでブランド品が安く手に入るようになったんだけど、それによってブランドの価値って変わりはしないか?と疑問に思っているところがあります。結論を先に言えば、高いからこそ生み出される価値があるのに、それを潰すことになってから失ったものの大きさに気づいてたらダメじゃないか?と。

高くて当然だろ

何故高いと分かっているのに、ブランドから購入するのか?という疑問について考えてみます。例えばメルセデスベンツを購入する人々の大半を占めるのは2種類の人間だそうです。それは「何故あなたはメルセデスを選んだのですか?他に安い車がいくらでもあるのに。」と質問された時に、

1、それがメルセデスだからに決まってんだろ。馬鹿か?

2、それがメルセデスだからに決まってんだろ。実際この会社は最初に衝突安全試験を考案し、その特許も作ったくらいだしね。信頼性は最高さ。

と答える人々だそうです*1(New Gold Standardって本のp.48の記載参照)

前者はブランドの信者です。後者はブランドの信者に理由を加えた感じです。残りの購入層はこれらの2者からの口コミから購入する人が多いそうです。1の人については何とも言えませんが、2の人なら一緒に食事でもしている時に、車の話をされると「なるほど、メルセデスは良い車なんだな」という気分にさせられます。そしてその価値に対して高い対価を支払うという行動に対しての合理的な理由付けがなされ、理解に繋がります。

ハードウェア or ソフトウェア?

高級ブランド店に行くと、それなりにいい気分にさせて貰えます。例えば銀座にあるCartierにて店員さんと話をしていると、席に案内され飲み物やチョコビーンズなどを楽しみながらカタログを眺めたり出来ます。他にも色々と宝石屋さんはあるのですが、同じような対応をするかというと、そんなことはないです。また、ダイヤモンドなどは4C(カット・カラー・クラリティ・カラット)という評価基準で判断されますが、Cartierと他の宝石屋さんとで同じランクに属する石を使った指輪などを比べると、明らかにCartierは高いです。もちろんカットの仕方やデザインが違ったりしますが、素材のダイヤの原価から考えると、やはりブランド名に上乗せされている部分は大きいなと分かります。

となると、ここでのブランドの価値と言うのは、もちろん物自体のデザインやこだわりといったハードウェア的要素もありますが、そのお店を通じて提供される買い物の楽しみなどのソフトウェア的要素にもあると考えられます。くつろいだ気分で買い物を楽しめるのと、その後に提供される上質なカスタマーサポート、これらの全ての体験をブランドと言う価値に結びつけることで、より高い価格で勝負できると言うわけです。

ネットでの安売り

ネットショップでの販売は、ブランド店で買うよりも割安です。しかし、そこにはそのブランドが提供する体験が不足しがちに思えます。もちろん同じ物をより安い値段で変えるのは便利ですが、そちらが普通になってしまうと、今のブランドショップで体験出来るような、他とは違う上質のサービスが消えてしまうのではないかと心配になってしまいます(同じ品物を購入する行為なのに、ネットで買ったらノークレーム・ノーリターンと言われたとかね)。

保険としての高額代金

ホテル通の間では、リッツ・カールトンかフォーシーズンズなら安心と言われたりします。これは、これらのホテルに滞在中に何らかの不都合が起きてもホテルがなんとかしてくれるという信頼によって生まれた評価だと思います。

例えばリッツ・カールトンは従業員一人一人にお客様に対して一日$2000(日本では20万円)まで上司の許可を取ることなく使用出来る権限が与えられています。これにより、お客様に何らかの問題が生じた場合、素早くその場の判断で行動することが出来ます。

事例を一つ上げると、ある大学教授が大阪のリッツ・カールトンに宿泊の後、新幹線で東京での講演に向かうためにチェックアウトしました。ところが途中で前の晩に用意をした資料を忘れてしまったことに気づき、ホテルに電話をしました。ホテルの従業員はすぐに部屋に忘れた資料を取りに行き、新幹線で東京に向かいました。こうして東京駅で待っている教授に無事に資料が届けられ、講演は事なきをえました。

単純な話ですが、東京大阪間を往復する新幹線代を会社の上司に許可を取らなければ使えない状態では、その許可申請に時間を取られ、間に合うタイミングを逃してしまう恐れも考えられます。しかし、こうした事態に常に迅速に対応出来る体制を整えることで利用者を満足させる環境を提供し、リッツ・カールトンやフォーシーズンズは高い宿泊料金を取ることを可能にしているというわけです。もちろん他にもホテルはたくさんあります。しかし、それらのホテルとの違いを明確にする何か(ここではサービス)が、この高価格を合理的と判断させる要素に繋がっています。言い換えれば、いざって時の安心のために多少の高額出費により保険をかけているような状態です。

保険としての高額金額の良い例としては正規料金の航空チケットなど最もたるものでしょう。旅行代理店が販売する格安チケットでは予約に制限が設けられ、一度支払いをしてしまえば予定の変更が生じた場合も払い戻しや変更がききません。仮に変更可能な時であってもかなり高額な変更手数料が発生します。また、貯まるはずのマイルも25%引きだったりします。ところが正規料金のチケットであれば4~6倍も金額は高く付く場合が殆どですが、日付の変更や払い戻しもしっかり行ってくれますし、マイルも100%付きます。ビジネスクラスに空があれば、優先的にアップグレードして貰えることもざらです。空を飛び回っている人の中にはエコノミー料金しか払ったことないけど、いまだにエコノミーに座ったことなんてないという人*2(The Penny Pincher’s Passport to Luxury TravelのChapter 6参照)もいるくらいです。こうして考えると、何らかの日程調整やトラブルで飛行機に乗れなかった際の保険としてだけではなく、それ以上の価値にも繋がるメリット(ビジネスクラスの料金は通常エコノミーの倍以上:つまり数十万円得している計算になる)すら含んでいるのが高額商品と言えます。

安売りでサービスはどうなる?

資本主義社会、自由市場主義では良い物をより安くが目指すところですが、素晴らしいサービスを提供するには、それなりのお金がかかります。質の高いブランド品が安く買えるのは良いことですが、そのブランドが提供していたサービスが消えてしまうのは寂しい気もします。

良い物を安く買いたいという欲望が、良い物を築き上げている要素を阻害しないようなバランスの良い社会が続くのが望ましいのではないか?と思っていますが、どうなんでしょう?

安物買いの銭失い、という言葉がありますが、ブランド品をより安くより安く、と安物買いを追い求めることで、そのブランドがトータルで提供していたサービスや顧客体験までも潰してしまい、最終的には銭失いな結果を招くのであれば、そうした消費者の行動は愚かに思えてしまいます。





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