「中国は一つの大きな家族です。2億人の子供が中学校に通っています。毎日2万2000人の女性が結婚し、4万4000人の赤ん坊が生まれます。門戸を開放してから、わが国の食糧事情は改善されました。毎日160万頭の豚と、240万羽のニワトリを食べています。若者には勉学の機会を、大人には仕事を与え、さらに2000万人の幼稚園児と1200万人の80歳の人たちを養わねばなりません。」
という状態らしい。この影響が世界に与えている変化を示す、とても良い例がある。
ある日マンホールのふたが消えた
2004年の2月中旬から数週間の出来事だった。はじめはゆっくりと、徐々に加速するように、世界じゅうの道路からマンホールのふたが消えたのだった。中国の需要によって、くず鉄の価格が最高レベルに跳ねあがると、世界各地の盗人が同じことを思いついた。夜のとばりがおりると、鉄のふたを持ち去り、切り刻んで中国へ出荷する地元の業者にうりはらったのだ。
シカゴではひと月に150個以上のふたが消えた。スコットランドの「排水路の大泥棒」事件では、ほんの数日で100個を超えるふたがなくなった。モントリオールで、グロスターで、クアラルンプールで、罪もない歩行者たちがマンホールにころげ落ちた。
最先端の技術力を巧みに吸収
13億人の消費者市場は、どこの国の企業にとっても宝の山に見える存在です。日本の企業にとっても、1990年代から中国への進出は当然の流れとして行われてきました。しかし、中国政府からの制約で自社工場は勝手に建設することが出来ませんし、政府の選んだ国有企業とのジョイントベンチャーを設立しなければなりませんでした。さらに、この巨大なマーケットへの参入料として、パートナーに技術移管をしなければならず、とどのつまり、売りである技術力をほぼ無償で相手に提供しなければならなかったのです。そしてこれらの技術は下請け業者から何の制約もなしに漏れ出し、市場はコピー品で溢れ出しました。日本企業が1万8000元でバイクを販売すると、それとほとんど変わらない品質のコピー製品が6000元で売り出されるようになるのです。
コピー品は工業製品に限らず、知的所有権にまで及びます。アメリカで製作された映画のDVDが発売される前に、中国では同じものが市場に出回っている状態です。海賊版の製作業者が映画会社にスパイを潜入させていないと事実上不可能なことが、日常的に行われています。
しかし、中国国内での競争は、なまじ学習能力が全体的に高い国民なだけに、互いに似たような商品を乱立させ、粗利を奪い合う熾烈な戦いに発展します。そこで国内競争に旨味を見出せなくなった企業は海外市場に輸出を図るのです。何故なら中国で3000元のオートバイが、ナイジェリアでは6000元で売れるのですから。
世界最大の卸売市場:義烏
浙江省の中心にあるこの小さな町は、知る人ぞ知る世界最大の卸売市場へと変貌を遂げました。そのスケールの大きさは、3万4000もの売店が軒を並べ、32万種類のありとあらゆる種類の製品を販売しています。北京で最安値の最高のお買い得品を手に入れたと喜んでいると、義烏に行った時に、同じ製品がその半額で買えることに気がつくのです。
ほぼすべての商品が、ヨーロッパやアメリカの最もやすいディスカウントショップで買える最安値の2分の1から3分の1、時には10分の1で買えるのです。実際に世界の大企業トップ500位に入る企業の利益は、ここ中国で仕入れた品々からの高いマージンによって成り立っています。中国政府の2005年の推計によれば、外国の小売店が卸売商品を調達した総計額は600億ドルにも上るそうです。それらの商品が2倍の価格で先進国の店先に並んでいると考えると、その利益に驚くばかりです。
しかし、こうした中国の安い労働力によって先進国の製造業者は大打撃を受けています。ただでさえ安く製品を作れる中国という環境で、粗利を奪い合う生存競争を勝ち抜けるだけの力を持った企業は、世界中を探しても多くはありません。むしろ、多くの先進国では、そんな労働条件で生活を維持できる環境ではないのです。反対に中国の製品で利益を出しているウォルマートやカルフールといった大企業はかつてない程の利益を享受できる立場になっています。つまり、大企業は儲かり、中小企業は潰れる時代が世界的にやってくることになります。
こうした動きが顕著になれば、国民の多くは中小企業に属している労働者によって成り立っているわけですから、当然政治的圧力が強まることとなります。国内の生産者の利益を確保するために国は保護政策を取り、中国製品の輸入に歯止めがかかることとなります。しかし、そうなってしまっては、中国の増大する利益追従の欲を止めることになり、その成長率に陰りを落とすこととなるでしょう。同時にそれは中国国民の雇用に影響を与え、失業者が増える事態へと発展すれば、各地での暴動に発展し、中国政府の脅威となります。そして、共産主義体制の独裁力を保ち続けたい政府においては、それは非常に避けたい現象です。故に、各国との貿易摩擦の問題は徐々に緩和していくべき課題となっております。人民元の為替変動についても今以上にペースを変えていかなければならない日もやってくることでしょう。
商品が足りない
商品先物の値動きは2000年まで下落の一途を辿っていました。それは20年にも及ぶものでしたが、まるで2001年に中国がWTOに加盟するのに世界経済が結びついたかのように、原油、金属、そして農産物の価格が急騰します。実際1970年には原油価格は1バレル当たり1ドル70セント程でしたが、現時点では65ドルになっています。2001年のアメリカの一人当たりの石油の消費量は中国人一人当たりの11倍の量になりますが、仮に中国人がそれと同じ量の石油を消費することになると、世界の消費量全体の3倍の供給が必要な計算になります。20年前の中国は東アジア最大の石油輸出国でしたが、現在は世界で2番目の石油輸入国です。
このような需要の増加は原油だけではありません。木材は1997年から2003年にかけて輸入量が1260万立方メートルから4020万立方メートルへ増加していますし、紙パルプは2760万立方メートルから6650万立方メートルへと増加しています。飽くなき中国への需要に応えるために、森林伐採を禁止している保護地区へ火を放ち、その火を消し止める名目で周りの木を合法的に切り倒し、中国への輸出品とする始末です。
農作物においても、国内で環境問題を度外視しての工業化が進み、汚染が広がった土地では作物の生産が困難な状態に陥ってます。北部の省では大豆の生産が盛んでしたが、近年では大規模な水不足に陥り、それもままならない状態です。2004年の段階で、その需要に応えるためにブラジルでは25,400平方キロメートルの熱帯雨林が大豆畑に変わり、その巨大な胃袋を満たすために生産を行っています。これは1分間にサッカー場6面分の熱帯雨林が大豆畑へと変貌を遂げていることを意味します。巨大な需要を満たすところに利益ありきです。環境よりも自分達のお金が優先されるのが市場の原理です。
まとめ
このように中国は現在世界の生産を担いつつ、急速に発展を遂げる中で全体が米国や日本のような生活水準を目指して貪欲に資源を食い尽くしています。それは先進国の中小企業に多大なる影響を与える傍ら、安価な製品を大企業を通じて流通させることによって、消費者物価を押し下げるメリットも同時に提供しています。
しかしながら、ウォルマートの買い物客に「中国のお陰で値段が安くなっていることに対して感謝していますか?」と問いかければ怪訝な顔をされるだろうし、長期国債を中国政府が購入していることによって住宅ローンが低金利に保たれていることなど、雇用への悪影響に比べたら、見過ごされてしまうことだろう。
こうした中、高まるであろう中国との輸出入規制に対して今後どのような対応を各政府が取っていくかが、今後の中国の発展に対して大きな要素の一つになることは明らかだろう。
確かなことは、どちらに転ぼうが原材料を始めとする商品市場の値動きは増加の一途を辿りそうだということだ。ならば、商品こそ魅力的な投資先ではないだろうか?
中国が世界をメチャクチャにする
大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
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